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桜丘の家

住宅設計ではお施主様との対話から新たな発想や改めて気づかされることが多々あります。それが住宅設計のおもしろさでもあります。


計画地は都内の成熟した閑静な住宅街に新たにできた分譲地の一画でした。
お施主様は以前より近所にお住まいで、愛着あるこの町にお子さんの成長と共にマンションから戸建住宅への住まい替えを考えていらっしゃいました。
最初の面談時、お施主様は購入した土地に対して自分たちの望む家の雰囲気・ボリューム感を盛り込めることができるか不安を抱かれているのが印象的でした。住み慣れたなじみのある町でようやく見つけた理想の土地を購入できたものの、いざ家をつくる段階にきてお困りの様子でした。お施主様のお話を伺っていくと、手元の資料には不動産業者からの参考プランとおおよその建築可能な床面積(建坪)の数値のみ。新しい分譲地でもあるため、敷地の現状は境界線が視覚化(たとえば隣地境の塀など)がされておらず、ぱっと見ただけではどれほどのボリュームが建築できるのかさえイメージできない、そんな状況がお施主様の目の前に置かれていました。

計画敷地は旗竿敷地(幅員の狭い路地が取り付いた敷地)に挟まれた約24坪。
図で見ると一見、敷地周囲に建物の無い空地が確保できる良好な環境にも見えますが、
現地を訪れるとその環境のギャップに気づきます。敷地の三方向、道路を挟んだ向かいのアパートも考えれば敷地四方向がすべて人目に晒される中洲のような敷地でもあります。
お施主様の不安はこのギャップにあるのだと感じました。
不動産業から言わせれば『計画敷地は南北に十分な空地が確保できる日当たり良好な土地』といった謳い文句が付けられそうな土地でもあります。また、こういった分譲地の場合は
計画地の分譲区画よりも旗竿形状の区画が敷地面積に対して割安で販売価格が付けられる傾向があります。土地の接道間口が狭いことや、施工都合(旗竿敷地は先に施工しないと重機が使えないケースもある為)などが関係していると思われますが、土地の分譲区画の形成やその価格決定は、土地の上に建つ住宅とは何ら関係無い処で決まっているのも現実です。
設計事務所では住宅の間取りをつくるだけではなく、その土地を見ることから住まいづくりの助言ができる職能を持ち合わせています。
土地の購入にはその土地への愛着や環境を好まれた想いがたくさん詰まっています。その土地に建つ住宅はその想いを少しでも多く吸い上げた結晶でありたいと思います。
ひいては昨今の台風・豪雨被害を受けて、住まいの土地選びにも初期の段階から設計事務所が積極的に参加すべきものと考えます。

桜丘の家/ 
木造 地上3階  延床面積112.24㎡(33.65坪)